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安部晴明の行った祭祀

安部晴明の行った祭祀

陰陽師は「気」を扱う職種であったといえる。そのため、仙道由来の気功術などを行い、気を練ることで何かしらの現象を起こす術があったのではないかという説もある。気功がいろいろな呪術の元にもなっていたのではないだろうか。今回は国をあげた祭りごと、祭祀について記する。

呪術的な資質に恵まれていた晴明は、朝廷や帝のためにいくつかの陰陽道の祭祀を行った。
そのうち泰山府君祭(たいざんふくんさい)は、陰陽道の祭祀の中では代表的なものであり、延命長寿や消災などに御利益があるとされる。
晴明の行った祭祀では瀕死の者を生き返らせるほどの効験があったと伝えられている。

また、寛弘元年の夏に長く雨が降らずに困った朝廷は、晴明に五龍祭を依頼している。
この祭祀は陰陽道の雨乞いの祭りで、密教の請雨経法(せいうけいほう)と併せて行われていたものである。安部晴明がこれを行ったところ、その夜から大雨になったと『御堂関白記・みどうかんぱくき』に記されている。

 

泰山府君祭(たいざんふくんさい)

陰陽道の祭祀の中でも泰山府君祭は国家の大祭として尊ばれ、民間に伝わることのなかった秘祭中の秘祭である。この祭祀を行う者は並みの陰陽師では務まらなかったと言われ、安部晴明は何度かこの祭祀を任されている。

泰山府君祭とは、本来中国の名山である五岳のひとつ、東嶽泰山(とうがくたいざん)から名前をとった道教の神であるが、陰陽道でも冥府(めいふ)の神、人間の生死を司る神として崇拝されてきた。しかし、この神様は閻魔大王(えんまだいおう)と同一視されているのだ。

閻魔大王といえば地獄で生前の行いを問いただし、嘘をつけば舌を抜くという怖い神様だが、もとは古代インドのヤマという冥界の神がモデルである。

近衛天皇(このえてんのう)の御代、蘇妲己(そだっき)という美女に化け中国の殷(いん)の紂王(ちゅうおう)をたぶらかし、国を滅ぼした悪狐の精を、この泰山府君祭によって晴明が(実際は五代目の泰親・やすちかがおこなったという)、見事正体を暴きだし追い払ったという。
このとき晴明は皇妃に憑依した悪狐の精を祓うために、皇妃に巫女の役をやらせた。これは祭祀を司る者の能力が相当なものでないとできないものである。
巫女が脱魂状態になってから、神霊を呼び、憑霊(ひょうれい)させるという高度な技を用いたのである。

この祭祀によって、皇妃に憑依していた蘇妲己(そだっき)はとりついている女の身体から抜け出なくてはならなくなった。もしもこれに抵抗するなら、招霊されてくる泰山府君祭の神霊に歯向かうことになってしまうからだ。
憑依的シャーマンは神霊を招き自分の身体に入れるのだが、晴明の場合は他者の身体に神霊を憑依させている。
これは古神道にある鎮魂帰神法(ちんこんきしんほう)のなかの多感法(たかんほう)といって、通常、巫女と審神(さにわ)そして石笛を吹く招霊役の三者が執り行うもので、晴明は審神者の役をしていることになる。

 

天冑地府祭(てんちゅうちふさい)

天冑地府祭とは、安部晴明を祖とする土御門神道(つちみかどしんどう)独占の祭祀であり、天皇家における重要儀礼のひとつとして数えられる。この祭祀は原則的に天皇一世一代に限って行われ、天皇の延命長生きを祈願するものである。

このとき中心となる歳神が天冑地府神であり、この神は陰陽五行の精を神格化したものといわれている。祭壇には泰山府君、北帝大王、水宮そのほか陰陽道で祀る十二神も奉じられる。

陰陽寮長官が天皇の衣装を形代で撫でて罪、穢れを移し、それを酒水加持(お神酒で清める)する。
その後に十二神を降臨させて、天皇の加護を祈るという儀式である。ただし、この祭祀は次第に形骸化し、つい明治維新を境に皇室儀礼から削除され、今は行われていない。

 

鎮宅霊符神(ちんたくれいふじん)

宅地相の守護神であり、陰陽道でいうと風水的に凶である住宅を吉に転ずる霊験がある神である。
天上においては妙見菩薩(みょうけんぼさつ)、または、北辰尊神(ほくしんそうしん)と称され、地上のみ鎮宅霊符神と呼ばれている。

日本には推古天皇(すいこてんのう)の御代、百済(くだら)の聖明王子(せいめいおうじ)と琳聖太子(りんせいたいし)が伝えたとされている神である。

その昔、宅地相に精通している漢の孝文帝(こうぶんてい)が行幸のの際、風水的にみて完璧に凶である家を見つけたが、なぜかその家の暮らし向きは豊かに見えた。疑問に思った皇帝は家の主を問いただしたところ、ある日訪ねてきた二人の書生に七十二府を伝承され、これを敬い、法を修ずれば、十年で富み、二十年で子孫繁栄し、三十年で白衣の天子がこの家に入るであろうと言われたと話した。
皇帝はこの話に感銘を受けて、それ以来、その符と修法を信奉し、天下に伝え施したという伝説が残っている。
日本に伝えられたその符と修法は後に安部晴明が復興させて、陰陽道のみならず、密教や修験道などへ影響を与えたと言われている。

 

五龍祭(ごりゅうさい)

平安時代宮廷の貴族たちにとって、天変地異とは天の神が示す何らかのサインか、または疫病や災厄をもたらす鬼神の仕業と考えられていた。不安定な気象条件、たとえば、長雨や日照り、台風、落雷などがあると様々な祭祀を行い改善しようとした。

その中でも龍神(水神)を祀る五龍祭は国家的祭祀として御所の東南に設置された神泉苑(しんせんえん)で執り行われたものである。五龍とは陰陽五行説の五行から生じた龍神を意味する。木気の青龍を東、火気の赤龍(せきりゅう)を南に、土気の黄龍(おうりゅう)を中央に、金気(こんき)の白龍を西に、水気の黒龍を北に祀り、茅(かや)で作った神像を置き、神供をそなえて祈雨(きう)するという雨乞いの祭祀である。

藤原道長の『御堂関白記』によれば、寛弘元年(1004年)七月十四日、長い日照りに悩んだ朝廷は、晴明に五龍祭を依頼した。そしてその夜は大雨になったと記録されている。

同様の祭祀としては、八七七年から八八五年の元慶年間(がんぎょうねんかん)に国家的に行われたものとして雷公祭(らいこうさい)がある。この祭祀は文字通り雷による被害を避けるとともに、五穀豊穣を雷神に祈るというものであった。
その他にも、地震祭(じしんさい)、高山祭(たかやままつり)、風伯祭(ふうはくさい)、風止祭(ふううしさい)、天地災変祭(てんちさいへんさい)、など自然現象に関する陰陽道の祭祀は八十八種にも及んだ。

 

四角四堺祭(しかくしかいさい)

平安人は疫病が流行ると鬼神の仕業であると考え、疫神祭(えきじんさい)という祭祀を行っていた。疫病神とは陰陽道では陽気と陰気が移り変わる季節の変わり目に出現すると考えられていた鬼神であり、これを祓うがために行われたのが疫神祭なのだ。

十世紀以後、この祭祀は頻繁に行われるようになり、宮城の四隅に巣食う疫病うぃ祓う祭祀と、都の四境の疫病を祓う祭祀が合わさって四角四堺祭というものである。この祭祀は国家的祭祀というよりは御所内の四隅の限定された場所(乾(けん)、艮(ごん)、巽(せん)、坤(こん)の方角)で行われ、どちらかというと天皇個人を鬼神の災厄から守るという祭祀であった。

この祭祀はまず陰陽師が宮中に出向き、宮中内に鬼気や邪気(穢れた霊気)があるかないかを判断し、もしそれが確認できたならば、その気に応じた措置がとられたのである。

紙や木または金属製の形代(かたしろ)を使って鬼気を吸い取り、その形代を宮廷の外に持ち出し捨てるという措置であったと考えられる。

 

朝廷主催の祭祀

高山祭 こうざんさい
虫害を払い豊穣を祈願する.都の北郊の船岡山,大和国吉野郡高山で行う.

雷公祭 らいこうさい
豊穣祈願,落雷のときなど,内裏の北,北野で行う.

五龍祭 ごりゅうさい
雨乞いのため,神泉苑で密教の請雨経法とともに行う.

四角四堺祭 しかくしかいさい
疫病流行のとき疫鬼の侵入を防ぐため内裏の四隅や山城国境(逢坂・竜花りゅうげ・大枝・山崎)で行う.鎌倉幕府も鎌倉近郊で行う.

五帝裁 ごていさい
御願成就のため,また神器・重宝を作るとき行う.

風伯祭 ふうはくさい
大風を沈め,風害を避ける.鎌倉幕府もおこなう。

 

天皇・貴族等が行う祭祀

玄宮北極祭 げんぐうほっきょくさい
天変地異や病気を除き,また祈願成就のため,天皇・上皇のみが行う.

天地災変祭 てんちさいへんさい
天変地異や怪異・厄年などの時に行う.

三万六千神祭 さんまんろくせんしんさい
天変地異を除き,天下泰平を願う.

泰山府君祭 たいざんふくんさい
寿命延長・息災を願う代表的祭祀.

天曽地府祭 てんそうちふさい
寿命延長・息災を願う.近世では天皇の即位,将軍の代替わりのとき行なった.

鬼気祭 ききさい
病気などのさい疫鬼の侵入を防ぐため門前で行う。

土公祭 どこうさい
犯土・造作などのさい土地神を鎮める

防解火災祭 ぼうかいかさいさい
御所・邸宅造営などのとき火伏せのために行う.

代厄祭 だいやくさい
病気や厄年を避けるために行う.

招魂祭 しょうこんさい
除病や息災,また人魂など光物ひかりものが出たとき行う.

呪詛祭 じゅそさい
呪詛を避け,息災・除病・安産などのために行う.

百怪祭 ひゃっかいさい
諸種の怪異を払うために行う.

本命祭 ほんみょうさい
生まれ年と同じ干支の日(本命日)に寿命延長・招福を祈る.

属星祭 ぞくしょうさい
生まれ年の十二支により定まる北斗七星の一星を本命属星とし、寿命延長・招福を祈る.

九曜祭 くようさい
個人の年齢によって毎年九曜の一つが当年属星となり、息災を祈るほか、九曜に関わる変異の時個々の星祭を行ない,日・月食の時日曜祭・月曜祭を行う.

悪夢祭 あくむさい
悪夢を解き払うために行う.

大将軍祭 だいしょうぐんさい
遷居などのさい大将軍の方位に触れるのを解き払う.

大歳八神祭 たいさいはっしんさい
造作・遷居などのさい行う.

霊気道断祭 れいきどうだんさい
病気の占いで霊気の祟りとされたとき,嵯峨六道などで祟りを払うために行う.

 

 

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