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陰陽道 お守り・符呪について

陰陽道 お守り・符呪について

陰陽道により神意を占い駆使する呪法のひとつ。星、方位、悪霊や怨霊による
災い除去の為の強力な呪術である。

お守りとは、厄除け(魔除け)、招福(開運、幸運)、加護などの人の願いを象った物品(縁起物)である。
護符、御符、とも呼ばれる。思いが籠ったもの。呪文、経文、神使(しんし)の動物、真言、密教の種子、これらを所持しておれば神仏の加護が得られ、災禍を避けることができるという。
家の中の神棚に掲げたり、家の入口に貼(は)ったりする。牛王(ごおう)宝印などのごとくこれを飲んだりもする。

符呪とは、weblio辞書などによると〔名〕 まじないの意味である。

①神仏その他不可思議なものの威力を借りて、災いや病気などを起こしたり、また除いたりする術。禁厭(きんよう・きんえんとも呼ぶ)。まじないで、病気や災害を防ぐこと。「人に呪いをかける」「人前でもあがらない呪いをする」

②ごまかすこと。うわべをうまくとりつくろうこと。また、相手の機嫌を巧みにとることの意味もあり。

*羅山先生文集(1662)六二・符咒「吁兵者不詳之器、而符咒亦不詳之不具也」

*随筆・百草露‐一六故事類苑・方技一)「仙家には、種々の符呪あり。是を神符とも、霊符とも、宝符とも称す」とある。

 

また、陰陽道の呪文を書き付けた霊符呪術のことである。『お札』や『お守』の原型ではないだろうか。今ではお寺や神社で出してくれるものとなっているが、もともとの本家は陰陽道なのである。

 

仏教でも梵字や真言を入れて、しばしばお札を作るが、こうしたお札の起源は、『大隋求陀羅尼経・だいずいぐだらにきょう』に、隋求菩薩(ずいぐぼさつ)の真言を写経して持っていれば、様々な利益があるとされているところからきていると言われている。
しかし、その他の経典では、あまりそのようなことは聞かれない。

 

神道の場合は、今日見るのは『神璽・しんじ』と書いた簡単なものが多く、明治以前の複雑なものは、ほとんど陰陽道の所産である。陰陽道では常用する呪文に『急急如律令・きゅうきゅうにょりつりょう』というのがある。これは、『急ぎ、律令の如くすべし』という意味で、もともとは中国漢の時代の公用文に用いられたものである。『資暇録・しかろく』によれば、律令の『令』は『零』と音が通じており、雷神の眷属神に『零』なるものがあって、これが稲妻と共に疾走するところから、早く物事が成就するという符呪とされたという。
中国漢代の公文書の末尾に、急々に律令のごとくに行え、の意で書き添えた語。のち、呪文 (じゅもん) の終わりに添える悪魔ばらいの語として、道家・陰陽師 (おんようじ) ・祈祷僧 (きとうそう) などが用いた。

 

初めは漢字と組み合わせて用いられることが多かったらしく、くしゃみ止めの呪符として知られる『休息万命急急如律令』はその一例である。
しかし、これが密教や修験道と融合すると、これに梵字を加えたものや、神仏の名を記した者、絵を加えたものなど、実に数えきれないほどの符呪が編み出された。
これらは目的別におのおのその用いられ方が異なり、家の内に貼るものから、地に埋めるもの、川に流すもの、焼いて灰にして飲むもの、そのまま飲むもの、御守りのように所持するものなど様々である。

また、『急急如律令』に関しては、修験道に『急急之大事』と称し、密教の印と結びつけたものも生まれ、始めの急には外五鈷印、次の急には宝形印、如は八葉印、律は智拳印、令は大日剣印にあてて、印を結んで符呪を開眼することもされた。

有名な九字に関しても、同じように印を当てはめて修験道でさかんに用いられるようになり、縦4本、横5本に棒を引く従来の九字は早九字と言われるようになるのである。こうした陰陽道の符呪は、道教のそれとはまた違う日本独自のスタイルを形成していったのである。

 

星辰信仰の影響を受けた霊符

 

星辰崇拝とは、太陽、月、星を、神秘的な力をもつものとして尊びあがめる思想のこと。また、それに伴う儀礼。(辰は日、月、星の意)星に神秘的な力を見出し尊崇する信仰、崇拝。
原始未開民族、中国、古代のオリエント、アラビア・バビロニア・インドなどで行われた。

また、比較的道教の色彩を残しているものに霊符がある。これには、梵字や神仏の名などは書かれず、円や線で形づくられた特殊な図形で、円は星を表しており、道教の星辰信仰が色濃くうかがえる。
鎮宅七十二霊符や武帝応用五十八霊符などは、その最も有名なものであり、修験者や陰陽師に好んで用いられた。こうした霊符は、従来の呪法である方違えなどが不可能なときにも、星や方位、悪霊の災いを除くことが出来る強力な符呪として珍重されていたからである。
また、すでに中国において、道教と融合していた仏教経典である『安宅神呪経』などが唱えられていて、こうした霊符の信仰をより強力に促進した。陰陽道が隆盛を見たひとつの理由に、このような道教の影響を受けて成立した仏教経典の存在を忘れてはならない。

一方、霊符信仰の本尊としては、鎮宅霊符神(仏教でいう妙見菩薩)が祀られた。
比叡山延暦寺にも『霊符次第』なるものが存在し、
「夫レ神ハ万物ニ妙ニシテ、変化ニ、通ズル者也、天道ヲ立テ是レヲ陰陽ト曰フ、地道ヲ立テ是レヲ柔剛ト呼ビ、人道ヲ立テ是レヲ仁義ト名附ク、三才ヲ兼ネテ此レヲ二ツニス、天地位ヲ定メ、山沢気ヲ通ジ、雷風相セマリ、水火ハ相撃ツ、八卦相交リテ往クラ推シ、来ルヲ知ル者ハ此れ神ナリ、天地吉凶ハ神ニアラザレバ知ル事ナシ、故ニ弟子今、霊符祈念ノ壇上ヲ整ヘ、禴祭(やくさい)ヲ陳(の)ブ」
とあり、まったく陰陽道一色の内容であり、天台密教による妙見法とは大きく異なっているのがわかる。

 

 

霊符を仏教に取り入れた空海

 

霊符はしばしば朱で書くことが行われた。また、朱書しない場合でも、紙の方は赤い紙を使うように指示されていたことがあるようだ。
朱はもともと水銀より取り出される丹のことである。水銀は古来、仙薬とされており、実際に中国では、性病などのように通常の漢方薬では効果が薄いとされる病に珍重されていた。
弘法大師空海も、水銀の呪力に着目し、そのため、真言密教の霊場を、水銀の産地である高野山に求めたという説さえあるのだ。高野山の地主神丹生津姫命(じぬしがみにうつひめのみこと)の名前にもされがうかがえる。

弘法大師は言うまでもなく、真言宗の開祖であるが、道教に関しても並々ならぬ知識があったようである。
『三教指帰・さんごうしいき』などでは、当時の常識を破って、道教を儒教より上に立てて、仏教に次いで優れた教えであるとしているし、最古の学校・綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)を開き、道教の講義も行い伝えている。

また、空中に『大般若魔事本』と大書して、悪魔を降伏したり、中国にあっては、水の上に童子が空書きをした『龍』という文字に一点加えたところ、たちまち本物の龍となって昇天したなどという伝説があり、道教の符呪的呪法にも通じていたようである。

 

 

霊符神を祀った熊野大社と富士山

 

また、図形的な文字を判におこして使用された『牛王宝印・ごおうほういん』も一種の符呪と考えられる。牛王は、牛黄とも書かれるが、やはり水銀と同じく、効果が著しい霊薬とされたもので、これは、牛の胆石を取り出して、薬用にしたものである。
今日でも漢方薬などでも薬品として貴重なものであるが、これとは別に、牛王は牛頭天王(ごずてんのう)のことでもあるともいわれている。
牛頭天王はかなり広く信仰された陰陽道の神であり、疫病神とみなされていた。同じ陰陽道の神である荒神(こうじん)とは、その性格を彼此流入(ひしりゅうにゅう)しあって発展してきたきわめて祟りやすい神で、鬼門の神でもあり、ハ将神(はっしょうじん)といった方位の神々の総帥でもある。

霊薬とされた牛黄と疫病の神である牛頭天王とは、自然に結びつきやすい関係にあり、牛黄は単なる薬ではなく、牛頭天王を鎮める呪力があるとされたのだろう。

 

初期の牛王宝印は、牛黄を混入した朱肉などで押された図版だったと思われるが、段々と薬物の方は忘れられ、神秘な絵文字の持つ呪力に対する信仰の方に重きが置かれるようになったのだ。

牛王宝印には二系統あり、『牛王宝印』という文字を造形的に書いたもののほかに、神の使いである動物を組み合わせて社寺の名を形づくったものがある。
前者には、如意宝珠が文字のどこかに描かれ、『牛王宝印』となどと書かれていることが多い。
後者のほうは、熊野大社の烏を使ったものや、泥川龍泉寺(どろかわりゅうせんじ)のように龍で文字を作ったものもある。特に、熊野大社のものは、熊野の牛王として名高く、誓約書としても使われていた。

熊野の神は、『鎮宅霊符縁起集説』によると、北辰妙見(ほくしんみょうけん)であるといわれ、熊野自体が霊符信仰の聖地であったということができる。
また、熊野の象徴『八咫烏・やたのからす』は、足が三本ある大烏であり、神武東征を助けたとされているが、これは、陰陽道でいう太陽の精『金鳥・きんう』とまったく同じ姿である。
八咫烏も一種の霊符神として信仰されたらしく、富士山修験道における独特の符呪、『お身抜き』や『おふせぎ』を集めた書が、『三足ノ烏の巻』とか『烏ノ御巻・からすのおんまき』の名で残されている。
また、富士山自体も陰陽道色の強い霊山であり、御縁年の庚申(かのえさる)の年は、陰陽道の庚申信仰(こうしんしんこう)から来ており、やはり熊野と同じく符呪の霊山ということができるだろう。

 

 

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